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亡失の呪い-if 13-

「じゃあ、行ってきます」
見送りに出てきた刀剣男士たちに審神者は挨拶をして、随行する形の六振りを振り向く。
山姥切国広、加州清光、鶴丸国永、燭台切光忠、太鼓鐘貞宗、そして大倶利伽羅。彼女の視線にそれぞれはうなずいてくれたが、大倶利伽羅だけは視線をそむけた。
「主さま、参りましょう」
ショックを受ける彼女をよそに、こんのすけが出発を促した。

前の主の墓参りをしたいことと併せて外出の許可も取ろうとしたが、こんのすけは外出許可は必要ないと言った。いわく、前の主が納骨されているのは、政府の庁舎内の納骨堂であるのだという。

その政府庁舎は地上は四階程度のマンションのような外観の建物だが、主だった部署はすべて地下にある。
彼女が今の本丸を引き継がないかと誘われた時以来の来訪だ。
こんのすけの後につづいて建物に入る。刀剣男士を連れている審神者の姿や、おそらく政府所属であろう刀剣男士が連れ立って歩いている光景を横目に、一行はエレベーターホールへ向かった。
ちょうど来ていた一つに乗り込む。こんのすけに指示されて地下十階のボタンを押した。

ドアが開き、こんのすけが出て左に曲がる。
リノリウム床を含めて周囲は薄暗く、内装は青白いそこはどことなく病院を思わせた。

「ようこそ。お参りの受付はこちらです。登録ID、もしくは故人様の認識票がございましたらそちらで受付が可能です」
「大倶利伽羅殿。たしか主さまの認識票をお持ちでしたよね」
こんのすけに促され、大倶利伽羅は腰の帯に括り付けていた認識票を取り外し、受付へと差し出す。
「お預かりいたします」
大倶利伽羅は表情には出さないものの、受付の人間が認識票を粗雑に扱わないかと警戒しているのが鶴丸たちには見てとれた。

受付の女性は認識票を機械にかけ、キーを打つ。そうして両手でそっと持って大倶利伽羅に差し出した。
「ありがとうございました。お返しいたします。それとこちらは参拝用のカードです。お帰りの際にこちらにご返却ください」
カードの方は審神者が受け取る。
受付の女性からご自由に参拝室をお選びください、と案内を受けた。

「最近の墓ってみんなこんななの?」
参拝室に向かう途中で加州が足元をちょこちょこ歩くこんのすけに尋ねる。
「昔のような石塔タイプはもうほとんどなくなりましたよ。たしか前の主さまのご家族のお墓も実際は納骨堂で、仏壇式と呼ばれるものだったはずですが」
「そうなのか、伽羅」
太鼓鐘貞宗が隣を振り向くと大倶利伽羅は眉を寄せ、詳しいことは知らん、とそっけない。
ただ確かに墓と聞いて想像するものでなかったのは間違いなかった。
「でもなんで家族と一緒に入らなかったんだ?」
「定員オーバー?」
加州と太鼓鐘の疑問に、こんのすけは当たり前のように、審神者だからですよ、と答えた。

「審神者の皆さまの通名にしてもそうですが、死んだ後にその遺体を敵に利用されないとも限りませんしね。火葬して骨にしても油断はできません。なので政府で管理をしているのです。あ、ここですね」

第二号参拝室と書かれた部屋に入る。受付で渡されたカードを機械にかざすと、作動する音がした。
「ここは自動搬送式と言って、遺骨が収蔵された厨子が参拝者の元に運ばれてくる形式なんです」
やがて壁側の半透明のパネルの向こうに、何かが運ばれてきた。パネルが両側に開いていく。
両脇に花が供えられ、中央には黒塗りの位牌、横に設置された石造りの枠で飾られた液晶に写真が映し出される。
「主さまにはご家族のように仏壇がありませんのでこちらで一緒に祀っております」

大倶利伽羅は写真がよく見える位置に近づいた。
写真の中の主は白無垢姿で、柔らかな表情でほほ笑んでいる。
それが以前に思いがけず主とともにモデルをしたときに撮られたものであることを彼は思い出し、同時にひどい胸の痛みを覚えた。

「いい表情だよね」
燭台切光忠が大倶利伽羅の隣に立って声をかける。

主は遺言で葬儀は不要としていたので当然ながら遺影用の写真を用意していなかった。
遺体は本丸から運び出され、規定時間の安置後に火葬、その後は政府の方で遺骨を預かり、四十九日を迎えた後に納骨の予定であったという。
だがそれに待ったをかけたのは刀剣男士たちだった。
満足に別れの言葉も交わすことができなかったのに、主を見送る時間も与えられないのか、と。

相談の上、別れ花で主を見送ることと、四十九日を過ぎるまではせめて本丸に主の痕跡を残しておきたいという結論になり、遺影の写真を選ぶことになった。
そして鶴丸が選んだこの一枚に満場一致で決定したのだという。

「さあ、お参りいたしましょう」
こんのすけの声に、背筋を伸ばした。


いつから自分がそうであったのか、彼女は正確には覚えていない。
もしかしたら、審神者になるために勉強していた時であったかもしれないし、実際に顔を合わせた時であったかもしれない。
いずれにしても彼女は今、自分の心の内に一振りの刀剣男士を住まわせていた。

大倶利伽羅、と呼べば彼は渋々と言った様子で振り向く。
これでもまだマシな方なのだから救いようがないと思いつつも、彼女はめげない。
「買い物に行きたいんだけど、一緒に来てくれる?」
「俺をつれて行っても仕方ないだろう」
「そんなこと言わないで。ね?」
つい彼の腕に触れて、けれどそれを振り払われ、ため息か舌打ちのどちらかで了承されるのが最近の常だ。

買い物を終えた彼女の目に入ったのは一軒の茶屋だ。
お茶でも飲んでから帰ろうと提案すれば、これは悪くなかったのかうなずいてもらえた。
長椅子で二人の間を隔てるように荷物を置かれてしまったことには落胆したが。

「ただいま」
「おかえり主。さっき電話があったよ。アヤだって言えばわかるって」
彼女は目を丸くする。アヤ、とは同じ審神者の養成学校で同期であった友人のことだ。
「ありがとう、清光」
買ってきた物を抱え、彼女は大倶利伽羅に付き合ってくれた礼を告げ、執務室に向かった。
それを見送った加州清光は大倶利伽羅に向かって肩をすくめてみせた。
「おかえり。お疲れ」
「……ああ」

アヤという名の友人は、学校では彼女を含めた四人グループのリーダー的存在で三人とも彼女のことをあっちゃんと親しく呼んでいた。
その彼女に折り返しの電話をかけると、グループで集まって食事でもどうかという誘いで。
『あんたもようやく審神者になって落ち着いてきたころでしょ。お祝いと久しぶりにみんなで集まりたいなって思って』
「それいい!」
『店はモールの創作料理屋なんだけど場所わかる?』
「最近できたところでしょ。もちろん大丈夫」
たしか元料理人の審神者が夜の時間だけ自身の刀剣男士とともに営業しているというので話題になっていた店だったか、と彼女は脳裏で情報を整理する。
『現世に行くんじゃないから外出許可はいらないけど、一応ここは刀剣男士同伴が原則だから、誰連れていくかも決めておいてね』

政府の管轄にある建物と言えど、審神者が多く集う場所というのは敵に狙われやすい。
敵にとって、刀剣男士を顕現できる審神者というのは、戦力を増産できる装置も同然だ。
ならばそれを破壊するかもしくは利用しようと考えるのはいたって普通のことで、つい先日も演練場が襲撃を受けて負傷者が多数出る事件が起きたばかりだった。
幸いにも死亡したり、拉致された審神者はいなかったようだが。

「あっちゃんは誰を連れていくの?」
『清光の予定。初期刀だし。当日は私をうんと可愛くするんだってもういまからはりきっちゃって』
うちの清光はいまのところそういうことは言ってこないなと思い、当日は支度を手伝ってもらおうかと彼女は考えながら、口に出しては他の友人たちは誰を連れてくるのかを尋ねた。

『ユリは燭台切光忠、サキは鶴丸国永だって。でもってユリと燭台切は付き合ってんだって』
友人から落とされた爆弾に彼女は一瞬言葉を失い、ええっと声を高めてしまった。
「あ、ごめん。え、でもうそ……ユリって確か」
『そう。学校時代散々、鶴丸カッコイイ、絶対最初に顕現させる太刀は鶴丸が良いって騒いでたのにね。わからないもんだわ』


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