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奥底の星を見つめたら-9-

ダークネビュラのビル内は、ひと気がなかった。
正面ロビーで業務を停止しているというアナウンスがあったが、だがまさか無人にしているとは思えない。

罠を警戒しつつも、フェニックスを先頭に、ケンタたちはビル内を走った。 だが途中でやはりというべきか、ダークネビュラのブレーダー部隊がその行く手をふさぐ。 しかし彼らはフェニックスが放つベイによってあっという間に蹴散らされた。
その後も進むたびに同じような部隊が現れたが、彼らの敵ではなかった。

やがてフェニックスたちは通路の先で『Laboratory』と示された部屋にたどり着いた。
他の部屋らしき扉や、別の通路らしいところもない。

「研究室?」
まどかはモバイルから端子の付いたケーブルを伸ばし、ドアロックの解除装置につなぐとパスワード解析にかけた。 ものの数秒でロックが開き、扉が自動で開く。
「なんだろうこの部屋」
辺りを見回す。室内にはカプセル状の装置、そしてコンピュータなどがいくつもあった。

「ちょうどいいわ、これでビルの内部構造とセキュリティを……ってなにこれ?」
まどかは自分のモバイルをコンピュータにつないだ。
ビルの内部構造のデータをコピーし、セキュリティも解除すると、部屋の外で見張っていたベンケイが、通路が現れたと声を上げた。 何かほかにも銀河を救う手がかりはないかと探っていると、この部屋にある装置についてのデータにアクセスすることが出来た。
どうやら実験装置らしく、それで行われていた実験のデータが表示される。

「……これって!」
「まどかちゃん?」
「この装置!銀河はこれのせいで記憶を失ったのよ!」
「ええ!?どういうこと?」
まどかが装置の説明をした。何か複雑な説明もされた気がしたが、分かったことといえば、とにかくこの装置によって銀河はそもそも記憶を失い、今の状態になったということだった。

大鳥翼からは、銀河はケガを負ってその影響で記憶を失っていると聞いていた。同時に何かしら大道寺が仕組んでいたのではないか、という予測もあったが、彼も詳しいことは知らないと言っていた。
大道寺は翼たちに本当のことを話してはいなかったのだろう。
「ではこの装置で銀河を戻すことは可能ということですか?」
「このデータを見る限り、完全に記憶の復元は難しいみたい」
「そんな……じゃあ銀河は元に戻らないってこと?」
「この装置を使ってでは、ね」
「やはり直接訴えるしかないか。先を急ごう」

「この先はベイスタジアムみたい。ほら、ビルの真ん中にあった楕円形状の!」
フェニックスの本来の目的はそこではないが、他にルートは無いようだ。
スタジアムの扉の前で止まり、まどかが内部のデータを再度調べていると、中から悲鳴が聞こえた。
「今のは」
「まさか銀河!?」
「とにかく進むしかない!」

全員がスタジアムに足を踏み入れると、広いすり鉢状のベイスタジアムの前に遊が倒れ、傍らには傷ついたリブラが転がっていた。
向かい側には竜牙が佇んでいて、スタジアム中央ではエルドラゴが静かに回っている。
遊とそして水地零士も倒れており、彼のベイ、ポイズンサーペントも傷だらけで転がっていた。
さらには双道兄弟や渡蟹、大池トビオなど、一回戦で負けたダークネビュラのブレーダーたちも倒れていた。
深海流太郎だけは無事なようだが、怯えた様子で観客席の壁際に座り込んでいた。

ケンタは遊の元へと駆け寄り、抱き起こす。
「遊!?遊、しっかりして!」
だが遊はぐったりとしていて、目を覚ます気配はない。
それはエルドラゴの糧になったヒカルや翼と同じ状態で、おそらく様子から見るに水地や渡蟹たちも同じと思われた。 先ほどの悲鳴は彼らのものだったのだろう。

「勝手に入られては困りますねぇ。いまは休みだと伝えたでしょう。そもそも、訪ねるならまずはアポイントメントを取っていただかないと」
声の方を見ると、特等席らしきところから大道寺が嘲笑いながら見下ろしていた。
「大道寺!どうして遊をこんな……仲間なんじゃないのか!」
「仲間?おかしなことを。彼は銀河君に負けました。水地君は盾神キョウヤ君に……ダークネビュラに役立たずは必要ありません」
「負ければ用済みってわけか。どうりでロクな人材がいないはずだぜ」
キョウヤが吐き捨てる。
「まあ竜牙様のエルドラゴの餌という役目は、きっちり果たしてもらいましたがね」
「この……よくも遊を!」
ケンタは涙目のまま竜牙を睨む。

竜牙は嘲りの表情と共に笑い声を上げた。
「悔しいか?俺が憎いか?なら遠慮せず立ち向かってこい!」
ケンタが怒りのままベイを構えようとすると、フェニックスがケンタを抑えた。
「よせ!怒りや憎しみで竜牙に挑むのは危険だ!」
抑えながら竜牙を見据える。竜牙は表情を変えず、余裕の態度のままだ。

ここで激発してベイを撃てば真っ先にケンタとサジタリオはエルドラゴの餌食となるだろう。
禁断のベイ、ライトニングエルドラゴは相手の恐怖や怒り、憎しみといった負のエネルギーを吸収し、自身のパワーへと変えるのだ。

「フン。やはりカスには向かって来る度胸もないか。ならばさっさとくたばれ!」
竜牙はエルドラゴをフェニックスたちへとけしかけた。とっさにフェニックスはベイを放ち、応戦する。
「フェニックス!」
「下がっていろ。ここは私が引き受ける。君たちは銀河を……」
「おっと。そうはさせません!」
大道寺が指を鳴らすと、スタジアムの入り口からブレーダー部隊がなだれ込んできて、ケンタたちを取り囲んだ。 キョウヤは舌打ちとともにレオーネを撃ちだす。 ベンケイもブルを、氷魔もまどかに修理してもらっていたアリエスを放つ。 一挙にスタジアム内は混戦模様となったが、エルドラゴとバーンフェニックスの衝突の余波がブレーダー部隊にもおよび、ベイで足止めをするどころではなくなっていた。
そして気づけば、ことごとくが戦えない状態に陥っている。

大道寺は苦々しい表情で舌打ちした。
そもそも竜牙には最初から敵も味方もないのだ。 こうなるのは予想できたが、しかしこれではキョウヤたちに逃げられてしまう。 ふと、気づいたのは真向いにあるもう一つの特等席だ。 思わず笑みが浮かぶ。
それに気づいたのは竜牙も同様だった。エルドラゴを手元に戻すとそちらに視線をやる。

「前に俺とではタッグにならないと言ったな。それならこいつら相手ならどうだ。……銀河」
「え!?」
竜牙の言葉にケンタたちが視線を向けると、銀河が観客席から竜牙の元へと歩いてくるのが見えた。
「銀河!」

銀河はケンタたちを見やり、そうして眉根を寄せた。
「二対五?面白そうだけどどうせまた竜牙が瞬殺するんだろ」
「なら手加減してやる」
「なに言ってんだよ!ベイバトルはいつだって真剣にするからいいんだろ!」
「バカを言え、こんな雑魚ども相手に本気になどなれるか」
「じゃあこいつらとおれの一対五!」

竜牙は舌打ちした。銀河はベイバトルに関しては言い出したら聞かないのだ。
「ならば一瞬で終わっても文句は言うなよ」
「そうこなくっちゃな!」
とはいえ、竜牙には本気を出すつもりなど端からない。
あくまでも目的は、銀河を使うことによって相手に怒りや憎悪といった負の感情を抱かせ、それをエルドラゴにパワーとして吸収させることだ。
そのためには銀河のわがままに付き合ってやるのも致し方ない。この程度ならば許容範囲だ。

「二対一だ。私が相手になる」
フェニックスはベイを手に、竜牙たちと向き合う。
もともと銀河に自分を取り戻させるバトルをするためにここへ来たのだから、フェニックスにベイバトルに応じることへの否は無かった。
ただ銀河だけでなく竜牙も相手となると少々分が悪いが、元より危険は承知の上だ。

「冗談じゃねぇ、俺がやる!銀河相手のバトルで俺が黙ってみてるわけねぇだろうが!」
キョウヤもまたベイをセットしたランチャーを構え、一歩前に出た。
「キョウヤさんだけに負担をかけるわけにはいかん!」
「ここまで来たんです。黙って見てるなんてできませんよ」
「ぼくだって戦うよ。遊のためにも!」
ベンケイ、氷魔、ケンタも前に出て、戦う姿勢を見せる。

「ダメだ!これはお前たちの出る戦いではない!」
キョウヤたちを連れてくるべきではなかったという悔いが、制するフェニックスの声を鋭いものにした。
彼らをここで戦わせるわけにはいかない。 ベイブレードの未来を担う彼らを、こんなところで暗黒の力の、エルドラゴの生贄とすることなどできない。

「いいではないですか、戦いたいと言っているのですから。それに誰が相手だろうと何人いようと、竜牙様には関係ありません」
「ッ、大道寺……!」
「やるなら早くしようぜ。二対五でいいんだよな!」
銀河がベイをセットしたランチャーを構える。
ベンケイたちの様子を見やって、フェニックスはうなずく代わりにランチャーを構えた。
一度バトルに向かうと決めたブレーダーを止めることがどれだけ難しいことか、何よりフェニックスは理解していた。


「行くぜっ!3!」
「2!」
「1!ゴー、シュート!!」

七機のベイが一斉にスタジアムに撃ち放たれる。
まずぶつかったのはバーンフェニックスとストームペガシスだ。火花を散らしぶつかりあう二つのベイ。
だがそこへロックレオーネが割って入り、フェニックスを退けた。
「勝負だ銀河!」
「キョウヤ……!」
「下がっていろ、盾神キョウヤ!」
今度はフェニックスがぶつかり、ペガシスとレオーネを離した。

一方、竜牙のエルドラゴはアリエス、サジタリオ、ブルの三機のベイから攻撃を受けていた。
だがあまりにも手ごたえが無さすぎる攻撃に竜牙は舌打ちし、銀河たちのほうを一瞥する。

お互いを妨げながらペガシスに対し挑むレオーネとバーンフェニックス。
いまのところ銀河の調子も悪く無いようだ。向こうに協力するつもりが見られない間は何の問題もない。
だが仮面のブレーダーフェニックスの目的を察しているだけに、このまま銀河だけに相手をさせておくのも賢明とは言えないこともわかっていた。
そもそも銀河にタッグを提案したのは竜牙だ。ならば早めに手を打つほうがいいだろう。

「雑魚どもが、それで攻撃しているつもりかッ!!」
一気に三機のベイをスタジアムの外へ弾き飛ばしたその勢いのままエルドラゴは駆けていき、フェニックスとレオーネを弾き飛ばすことでペガシスから引き離した。
「っ、竜牙!」

四つのベイの衝突。
人数比は二対二でタッグバトルとしては申し分ないはずだったが、いかんせんキョウヤの方にタッグのつもりがなく、個人で戦う意思の主張が激しすぎた。 レオーネの目的はペガシスだけで、同じくペガシスを相手にしようとするバーンフェニックスさえキョウヤにとっては邪魔なのだ。
そのため、バトルを通じて銀河に訴えかけるというフェニックスの目的はいまだ形を見ないままだった。

「キョウヤ、フェニックスと協力しなきゃ!」
「キョウヤさん!」
「うるせぇ!」
「ここに来た目的忘れちゃ意味ないでしょ!」
「どうしちゃったんだろうキョウヤ、ここに来て急に」
「彼なりに腹に据えかねているのかもしれません。ぼくだってあんな銀河は見たくなかったですけど」
「それは僕だってそうだけど……」

バトルブレーダーズ一回戦や二回戦の時の人が違ったようなバトルではなく、ケンタや氷魔たちが知るいつもの銀河だ。 それなのにその隣には当たり前のように竜牙がいて、しかも連携がとれている。
キョウヤでなくとも怒りに駆られる状態だが、それでも分別は働いているのだろう。決して竜牙を相手取ろうとはしない。

「皮肉なものです。盾神君の鋼銀河への執着がこんな形で我々の助けになるとは」
特等席からバトルの様子を眺め、大道寺はひっそりとつぶやきながら眼鏡を直す。 フェニックスの目的を結果として盾神キョウヤが防いでくれていることに加え、竜牙と銀河は、相手がタッグも何もあったものではない状態なのも手伝って連携をとってバトルをしていた。

一方を相手にしている隙をついて、もう一つが攻撃を仕掛ける。
しかもそれが合図を送るわけでもないのに自然と互いの役割を交代していくのだ。 チャレンジマッチの時には見られなかったタッグだが、あの時は相手が弱すぎただけで実力あるブレーダーが相手ならば、今のように連携をとってバトルすることも可能になっているのだろう。

思えば、銀河がダークネビュラに属するようになってからは二人で何度もバトルをして相手のことをよく知っている。 お互いがお互いの刺激になり、結果二人の力は増していく。
やはり鋼銀河に装置を使ったことに間違いはなかった、と大道寺は自分の判断に満足していた。
「メルシー、録画は順調ですね?」
『oui.ご主人様。ご指示通りに録画と、バトルブレーダーズ会場への中継も』

『こ、これは一体どういうことだ!?突如モニタに映し出されたのは、ペガシスとエルドラゴ、それにレオーネと謎のベイのバトルだッ!』

ブレーダーDJが戸惑いながらも興奮した様子で実況を始めると、会場内に驚愕と戸惑いが広がっていく。
それが運営委員長の名のもとに急きょ決定された、準決勝が始まるまでのエキシビションタッグマッチであることがブレーダーDJを通じて伝えられると、会場内の空気は一気に興奮へと変わり、歓声が湧き上がった。
会場各所に設置されているモニタにも同様に映され、見ている子供たちは興奮して友人たちと話し込む。
「すげーっ、ペガシスとエルドラゴがタッグを組んでるぜ!」
「チャレンジマッチの時はちゃんとしたの見れなかったもんな」
「なんだあれ、初めて見るベイだ!」

何度目になるかわからない、レオーネのペガシスへの突撃と、そこへ割って入り、ペガシスを引きずり出すフェニックス。 引きずり出されたペガシスをエルドラゴがさらに割って入る形で助け出すとともに、フェニックスへと一撃を浴びせる、という光景が繰り広げられていた。
「銀河!」
「飛べ、ペガシスッ!」
竜牙の掛け声を合図に銀河はペガシスを空中へ飛び出させた。

「暗黒転技……竜皇翔咬撃!!」

その瞬間、エルドラゴのフェイスが光り、クリアウィールが回転してレイジングモードへと切り替わる。
キョウヤとフェニックス目がけて放たれた衝撃波は、ベイともども周りのものすべてを薙ぎ払った。

煙が晴れ、スタジアムには回り続けるエルドラゴの姿があった。 さらに、空中へと舞い上がっていたペガシスがスタジアムに着地し、速度を落としながらも回転して見せた。 レオーネとバーンフェニックスは崩壊した壁の瓦礫に挟まり、身動きを封じられていた。
「キョウヤさん!」
「フェニックス!」
ベンケイとケンタがそれぞれ駆け寄ると、二人ともダメージは受けながらもなんとか立ち上がる。

竜牙と銀河の手元にベイが戻り、二人はキョウヤたちを一瞥する。
「そういえば準決勝っておれと竜牙のどっちかは盾神キョウヤとだよな。竜牙、どうするんだ?」
「貴様はあの妖術師とやれ」
竜牙の声と、向けられた銀河の視線に流太郎は小さく悲鳴を上げた。
「じゃあ竜牙がキョウヤとか。そしたら決勝は」
「俺とお前だ」

「……ふざけたこと抜かしてんじゃねぇ!!銀河、俺ともう一度勝負だ!」
「キョウヤさん!」
支えようとするベンケイを振り払い、キョウヤはレオーネを手に進み出ると、銀河と竜牙を睨む。
ランチャーにベイをセットして、構えた。
「さあ構えろ銀河!」
銀河は顔をしかめ、ため息をつきつつも再び構えようとしたところで竜牙に抑えられた。
「竜牙?」

竜牙は嘲笑を浮かべてキョウヤを見やる。
「どうした。準決勝で勝てないと見て、今ここで銀河と決着をつけるつもりか?」
「なんだと!?」
「負ければ、バトルブレーダーズで銀河と戦う機会などなくなるからな。焦りもするか」
「ふざけるな!!」
「そうでないなら証明して見せろ」
「上等だ!テメェに勝って俺が銀河と決勝で戦う!それなら文句はねぇな、竜牙!!」

にらみ合う竜と獅子。 それを見おろして大道寺は眼鏡を光らせ、ほくそ笑んだ。

準決勝第一試合は鋼銀河対深海流太郎、第二試合は盾神キョウヤ対竜牙に決定した。


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