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奥底の星を見つめたら-5-

ブレーダーの頂点を決める大会であるバトルブレーダーズ開催を一か月後に控え、ついに竜牙が動き出した。
驚異的な強さでチャレンジマッチの参加者たちを薙ぎ払い、凶暴なまでの存在感を見せつけている。
バトルブレーダーズ出場を目指すブレーダーたちは竜牙の出現に、ある者は驚愕し、またある者は慄いた。

「いやはや、さすがは竜牙様。圧倒的という言葉すら生ぬるい。……おや銀河君、どうしました。つまらなそうな顔をして」
メルシーに示された竜牙の戦績を見ていた大道寺は、ふと視界の端で銀河が頬をふくらませてすねているのを見つけた。
「なー、まだ?」
ソファの背にもたれかかりながら、銀河はじっとりと大道寺を睨みつけた。
「まあ待ちなさい。もうすぐ竜牙様がお戻りですから、戻られたら嫌でもバトルは出来ますよ」

ここ最近、銀河は大道寺の指示で本部の外には一歩も出ていない。
おまけに竜牙がベイポイントを集め始めたことでここにいない時間が多く、その間は大道寺と一緒に過ごすしかないのだ。 とはいえ大道寺と話したところで銀河にはあまり面白い話は少ないし、彼が養成しているブレーダーたちもトレーニングに忙しいのでベイバトルに応じてくれそうな相手もいない。 くわえて翼や遊は竜牙に同行しているのが、銀河にとっては不満だった。
自分だって直接この目で竜牙のバトルが見たいのに。

「それもだけど、いつになったらチャレンジマッチに行ってもいいんだよ。あと一か月しかないんだぜ!」
銀河のポイントは今の時点で四万七千あり、参加資格の五万ベイポイントまであともう少しなのだ。 にもかかわらず外に出る許可が下りないため、チャレンジマッチに参加が出来ない。
このままではバトルブレーダーズへの出場権獲得は危うい状態だ。

「言ったでしょう。銀河君の調子が戻ったら、と」
「そればっかり。おれはいつだって元気いっぱいだって!」
「そう言って一昨日熱を出したのはどこの誰でしたかね。第一、今のポイントなら一回か二回出るだけで達成するじゃないですか、余裕で間に合うでしょう」
「……ケチ。そんなんだからサボテンに刺されるんだろ」
「何か言いました?」
「なんでもなーい」
おもわず銀河が小声でついた悪態を拾い上げ、大道寺はメガネを光らせる。
ごまかすように銀河はふいと顔をそむけ、頬を膨らませた。 ポイントだって大事だが銀河がしたいのはとにかくバトルなのだということを、大道寺はまったくわかっていない。

拗ねる銀河を見やり、大道寺はため息をつきながら画面に表示された銀河のデータに目を通す。
ここ最近の調子の上がり下がりの激しさに大道寺は舌打ちしたい気分で眉をひそめた。

すべてはあの日、銀河が謎の仮面ブレーダーとバトルをしてからだ。
銀河がトアルシティのチャレンジマッチに参加し、優勝した直後、会場から姿を消した。 その報告を銀河に同行させていた部下から聞いたとき、大道寺が真っ先に思い当たった可能性が銀河の記憶が何らかの拍子に戻ったのではないかというものだった。 自身がどうしていたのかを理解し、逃げ出したのではないか、と。

大道寺にとっては偶発的に銀河の記憶が元に戻って逃げ出したのならば、それはそれで構わなかった。
銀河のことだからいずれバトルブレーダーズに出場するのは明らかだ。 そこで竜牙と戦うことになれば、むしろここでの記憶を新たな憎悪に変えることで竜牙の糧としての役目を果たさせることもできる。 だがそうではないとしたら、貴重な実験体を失うことは避けたかった。
メルシーに銀河に持たせたGPS発信機を元に所在を捜させ、大道寺はブレーダー部隊の派遣を指示した。

部下からの報告によれば、銀河は建設中の現場で謎の仮面ブレーダーとバトルをしていたらしい。
溶け落ちる鉄骨もある中、炎で形作ったようなベイが攻撃を繰り出す。 操るブレーダーは一撃一撃の間に、銀河に思い出すよう訴えていた。

ペガシスが劣勢になってくると、銀河はその仮面のブレーダーの言葉に動揺し、頭を抱えて苦しみ始めた。
大道寺は銀河を監視する部下には、もしも銀河に記憶を思い出させようとする相手が現れた場合は何としてでも妨害しろと命じてあった。 彼らはそれを忠実に守り、派遣されたブレーダー部隊と共に数の乱入で混乱させ、隙をついて銀河を連れ出すことに成功したが、ここへ戻されたときの銀河は痛みに苦しみ、錯乱し、ついには気を失い倒れこんでしまった。

大道寺は急いで銀河を装置へ運んで記憶の一部をリセットしたが、それからというもの仮面ブレーダーとのバトルが潜在意識に残ってしまっているのか、トレーニングの最中に倒れることが何度かあった。
装置の改良は進んでいるが、記憶の改変に関しては調整が難しく、どんな事故が起きるかもわからない。

大道寺としては、偶然で記憶が戻ったのならあえて対処する必要はないと考えていたが、一方で意図的に思い出させようとする行為を見逃すつもりはなかった。 下手な刺激で中途半端に記憶が戻った結果としての弊害、例えば銀河のブレーダーとしての意識まで消えてしまった場合、竜牙の逆鱗に触れるのは確実だろう。

だからこそ銀河がバトルブレーダーズ出場を確かにするまでは装置を使うような事態になってほしくはない。
潜在意識も含めてすべての記憶をリセットするのは、あまりに危険な賭けなのだ。

『ご主人様。竜牙様が間もなくお戻りです』
「……だそうですよ。竜牙様に存分にお相手していただきなさい」
「よっしゃ!」

嬉しそうに部屋を出る銀河を見送って、大道寺はやれやれとため息をついてサボテンの鉢を手に取った。
『ところでご主人様。そろそろ定例のメンテナンスに入らせていただきたいのですが……』
「ああそうでしたね。ごくろうでした、メルシー。どうぞゆっくり休んでください」
礼を告げたメルシーがふと何かに気づき、モニタに映し出す。大道寺はそれを見やって目を細めた。

「ほう、これはこれは」
――ようやくネズミがしびれを切らして動き出しましたか。

フッと大道寺が笑みを浮かべると同時にひと際大きな雷鳴が響き、稲光が部屋の中を一瞬白く照らした。


「え、チャレンジマッチに行って良いのか!?」
「ええもちろん。それには竜牙様もご一緒します」
「竜牙も?」
首をかしげた銀河の手元に、大道寺はカードを一枚滑らせる。
そこにはチャレンジマッチの開催場所と日時、獲得できるベイポイントが書かれていたが、タッグバトルのみの大会であると言う注釈がつけくわえてあった。
「タッグバトル……ってまさかおれと竜牙で?」
「竜牙様には了承いただいています。どうぞお二人で存分に暴れていらっしゃい」
「よっしゃあ!久々のバトルだぜ。燃えてきたーッ!!」
元気に飛び出していった銀河を見送り、大道寺はため息をつく。
「久々、って竜牙様と毎日のようにベイバトルをしているじゃないですか……」

誰にも聞かれない呆れの混じった独り言をつぶやいて、大道寺はデスク上に置かれたサボテンの鉢植えを手に取ると指先をそっとトゲへと持っていく。
「しかし竜牙様と銀河君のタッグ。さてどうなりますか……痛っ」

移動中のヘリ機内では、久々の大会に参加してのベイバトルが出来るとあって、銀河はいつになく嬉しそうだった。
その横顔を一瞥し、竜牙はこれに至る大道寺とのやりとりを思い出していた。

「銀河とタッグバトルだと?」
「はい。彼もそろそろ限界のようですし。我慢できずに勝手に飛び出されては困りますので、近々開催される大会に竜牙様もご一緒に参加していただきたいのです」
「なぜ俺が銀河とタッグなど。貴様の育てたブレーダーと組ませておけばいいだろうが」
「そうおっしゃるとは思っていました。私の育てた者たちも優秀ですが、それでも彼とタッグを組めそうな者は残念ながら……それに、出来れば鋼銀河を外に出すことで動き出す輩の尻尾を掴みたいと思ってもいるのです」
「あの男か」

つい先日、大鳥翼を仕留めそこなった時のことを思い出し、竜牙は忌々しげに吐き捨てる。
大道寺から謎の仮面ブレーダーが銀河に接触した件を竜牙は報告として聞いていた矢先、大鳥翼がスパイだったことが発覚して、竜牙自ら制裁の為に相手をしたが、それはフェニックスと名乗る仮面ブレーダーによって阻止されていた。 チャレンジマッチには参加していないようだが、先日の例を考えればまた銀河に接触してくる可能性は高い。 大道寺は銀河を使ってフェニックスをおびき出したいのだ。

「……いいだろう。その大会に出てやる」
あの時仕留めそこねた大鳥翼はまたいずれとして、フェニックスとか言うブレーダーをエルドラゴの餌食にしてやるいい機会かもしれない。

「もしもフェニックスの足取りを掴めたなら、その後のことは私が何とかいたします。これ以上、銀河君を不安定にさせないためにも」

大道寺は万が一フェニックスが銀河に接触してきたときにそれから竜牙が守ってやることを期待しているに違いない。 確かに大道寺の養成したブレーダーでは銀河を守りきれるかどうか疑わしいとはいえ、まったく愚かなことだ、と内心で竜牙は吐き捨てる。

ブレーダーである銀河が自分の身一つ守れないでは、到底竜牙が望むような成長など期待できはしないではないか。 だが記憶を刺激されれば錯乱に陥る可能性があるのもまた事実であり、不本意だが、銀河を守ることも考えなくてはならないのだろう。
不安の種を残したままでは銀河のさらなる成長の可能性さえ潰れてしまうのだ。

――だがそれにしても自分が銀河を守るなどとは!

「……フン、精鋭部隊が聞いて呆れる」
「竜牙?」
まもなくチャレンジマッチが開催される街に到着しようとしていた。

『なんとなんと、タッグバトル一回戦から波乱必至だッ!もはや知らない者はいない鋼銀河選手と、こちらもまた圧倒的な存在感の竜牙選手!この二人がまさかのタッグを組んで乗り込んできたぞ!!』

ブレーダーDJの実況と映し出された光景に、ケンタは言葉を失った。

ベガスシティで遊たちダークネビュラと共に銀河が行ってしまった後、トアルシティのチャレンジマッチに参加したのを最後にしばらくその姿を見ることはなかった。 バトルブレーダーズ開催一か月前になって入れ替わるように竜牙が姿を現し、大会を荒らしまわった。
そして今、その二人が同じ大会にタッグで参加している。

あの時の遊の言葉に衝撃を受けながらも、頭のどこかで銀河がダークネビュラにいるなど、きっと何かの間違いだとずっと思っていた。 だが目の前に広がるその光景は、いやでもケンタに現実を突きつけてきていた。

「そんな……銀河」
どうしようもない絶望感がケンタを襲っていた。

ケンタよりも深く絶望していたのは、その大会の一回戦でよりにもよって竜牙と銀河に当たってしまった対戦相手の二人だったかもしれない。 彼らは幼い時から一緒で、特にタッグバトルでその強さを発揮してきたし、自信もあった。 だが今目の前にいる相手二人はそんな過去や自信などすべてかき消してしまうほどの強敵だ。 彼らのブレーダーとしての感覚が、この二人に勝てるはずがない、と告げていた。

だが彼らにもプライドはある。たとえ個人の実力が高くとも、タッグでの戦い方に慣れてはいないはずだ、と。 そんな一縷の望みに託し、ブレーダーDJの合図に合わせて、ベイを撃ち放った。 だがそもそも竜牙はチャレンジマッチで百機のベイによるバトルロイヤルに参加し、他のベイをいともあっさりとすべて薙ぎ払ってしまうだけの力をすでに見せつけているのだ。 対戦相手の彼らがそれを思い出したのは、わずか数秒で自分たちのベイがスタジアムの外へと吹き飛ばされた後だった。


「竜牙とじゃ全然タッグにならないぜ」
そう言って銀河はふいと顔をそむける。
竜牙と銀河は次のチャレンジマッチ会場に向かっていた。 先ほどのタッグバトル大会では試合のほぼすべての決着が一瞬でついてしまうばかりで、銀河としてはまったくもって面白くない。 竜牙と銀河二人、というよりほとんど竜牙一人の圧勝で制してしまった。

タッグも何もあったものではない勝利で共に二千五百ベイポイントを獲得したが、銀河は一回戦の後からずっと不機嫌だった。 おまけに次は竜牙だけが参加する予定なのがなおさら腹立たしい。

「いい加減にしろ」
そんな様子の銀河に竜牙は舌打ちし、吐き捨てた。

銀河が存分にバトル出来なかったと訴える不満は理解できる。
竜牙にしてみてもタッグバトル以前に相手が弱すぎたことには退屈を通り越して怒りさえ覚えているのだ。 それなのに横で不機嫌な顔をされては苛立ちが余計に増す。
フェニックスが現れる気配もなかったのでなおさらだ。

「だって……」
「なら次は貴様が出ろ」
「次?でも次は竜牙が」
「譲ってやる。横でいつまでもうっとうしい顔をされたくないからな」
「竜牙!」
「だが出るからにはこの俺に腑抜けた戦いなど見せてくれるなよ」
「ああ、もちろん!」
ありがとう、と銀河は嬉しそうに笑い、竜牙に抱きつこうとして防がれていた。

「おや。この大会は予定では竜牙様が出場のはずでしたが」
大道寺の前に置かれたノートPCの画面には、今日二つ目のチャレンジマッチの様子が映っていた。 竜牙が出場予定のはずだが、実際にバトルをしているのは銀河だ。

『oui.どうやら急きょ鋼銀河が出ることになったようです。今からでしたら竜牙様を別の会場にお連れすることは可能ですが、いかがいたしましょう』
「……このままで。竜牙様でしたらこれに出なくとも問題ありません」
先ほどのタッグバトル大会で銀河は二千五百ポイントを獲得し、五万まであとわずかとなった。
この大会で銀河に優勝してもらったほうが大道寺としても都合がいい。 五万点集まったことを理由に、銀河をバトルブレーダーズ開催まで外に出さずにおくことが出来るからだ。

竜牙を別の場所に動かすことでフェニックスに行動を起こされるのは好ましくない。
おびき出したいのは確かだが、それはあくまでも竜牙が銀河と一緒にいるという前提での話だ。 いまのところ同行させた部下から発見したと言う報告はないが、いつ何が起こるかわからない。
用心するに越したことはなかった。

「竜牙!」
大会を終えた銀河は真っ先に竜牙の元へと駆け寄った。
出場予定を譲ってもらい、腑抜けた戦いは見せないと約束した以上、優勝以外の結果などあり得ない。
その証拠に五万を超えたベイポインターを見せると、竜牙は手を伸ばして銀河の額を指先で突いた。

「うっ」
「戻るぞ」
「うん!」
突かれた額をさすりつつも銀河は笑顔だ。
ベイバトルはやはり楽しいし、優勝もできてこれでバトルブレーダーズへの出場権を獲得した。 だがなにより嬉しいのは、竜牙から手を伸ばして触れてくれたことだった。
いまの銀河にとっては言葉で褒められるよりも、それは何よりのご褒美なのだ。


ケンタ、ヒカル、氷魔、ベンケイの四人はキョウヤに続くようにベイポイント五万を手にして、まどかの待つB-Pitに集まった。
無事の再会と互いの出場権獲得を喜び合うものの、どうしても心の底から喜べない要素があった。

銀河がバトルブレーダーズ出場権を獲得した。
それだけならば一番に喜ぶべきことなのに、集まった仲間たちには苦い要素の混じった話題となっていた。

久しぶりにチャレンジマッチで見た画面越しの銀河は自分たちの知っている姿と違いがなかったのに、その隣にはあの竜牙がいたのだ。 二人がそろってタッグ形式のチャレンジマッチに出場したという、言葉にすればただそれだけだが、ケンタたちには充分に絶望できる事実だった。

「銀河がダークネビュラにいるのは、間違いないみたいね」
「うん……しかも記憶喪失」
「記憶喪失はこの際置いておくとして、どうしてよりによってダークネビュラなのか、そこがわかりません」
まどかとケンタが落ち込む横で、氷魔は苦々しい表情を浮かべながら首を振る。

ダークネビュラは、そして竜牙は銀河にとって父の仇で倒すべき相手のはずだし、ダークネビュラ側にしても、いくら記憶喪失でも銀河を自分たちの陣営に属させる理由も特になく、ましてやメリットなど思い浮かばない。 いったいどんな理由で、今の状態になったのか。

「だが銀河もバトルブレーダーズに参加する。理由はそこで問い質すしかないんじゃないか」
バトルをすればわかるはずだ、とヒカル。自分たちも銀河もブレーダーだ。
ブレーダーの対話はベイバトルでするしかなく、言葉では何と言っていたとしても、ベイはウソをつかない。

「ヒカルの言う通りじゃい!ベガスシティのときは銀河と戦えんかったが、今度はバトルブレーダーズ!誰かが必ず銀河と……いや、キョウヤさんが銀河に絶対に勝つ!そしたら銀河もきっと目が覚める!」
「ベンケイ……そうだ、そうだよね。僕たちはバトルブレーダーズに出る。そこで銀河に会って、バトルで確かめるしかないんだ!」
「その意気じゃ、ケンタ!」
ベンケイはケンタの小さな背中を叩いて、豪快に笑った。
勢いと痛みにおされながらも、ケンタはベンケイを見上げ、大きくうなずく。
それを見やって、まどか、氷魔、ヒカルは互いの顔を見て、うなずき合った。

「待っていろ鋼銀河。必ずバトルブレーダーズで貴様に勝つ!」
かつて仲間と戦い、そして別れたその場所で、孤高の獅子の咆哮が風に乗って流れていった。


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