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奥底の星を見つめたら-3-

「あれー?銀河は?」
決勝が行われるスタジアムに出てきたブレーダーは五人。
顔ぶれを見ると、銀河の姿だけがない。遊は辺りを見回した。
「おい、銀河はどうした」
キョウヤが氷魔やケンタに問う。
思えばここへ来てからというもの、ケンタやベンケイのそばに銀河の姿を見なかった。 最初は来ていないのかと思ったが一回戦には出ていたし、その後もこの決勝まで勝ち進んでいる。

この場で銀河を倒す。いや銀河だけではなく全員を倒してここで優勝すると言うキョウヤの目的を達成するためには、何よりも欠いてはならない存在だと言うのに。
「それが……」
答えようとするケンタに重なるように、ブレーダーDJが銀河が体調不良の為に棄権することになったことを告げ、会場内からは落胆の声が上がった。

キョウヤは眉を吊り上げケンタに牙を剥く。
「棄権だと!?どういうことだ!」
「さっき調子悪そうにしてたんだ。ベンケイが医務室につれて行って。でも棄権するほどだなんて」
「えーつまんない。せっかくまた銀河に勝つチャンスなのに」
ちぇっ、と遊は唇を尖らせ、機嫌を悪くした。
いまは銀河も同じダークネビュラに属してはいても、遊は戦いたいと思えば戦うし倒したいと思えば倒す。 どこまでも自由だ。どのみち優勝者は一人しかいない。翼もライバルだし、他もそうだ。 だからこそこれからの決勝を楽しみにしていたのだが。
落胆にため息をつき、けれどまあいいか、と気持ちを切り替える。
「だったらさっさと終わりしちゃおっと」

急きょ五人となったバトルロイヤルの決勝を制し、ベガスシティチャレンジマッチの優勝は、盾神キョウヤに決まった。 優勝者に与えられる一万ベイポイントを獲得したことにより、キョウヤは五万五百ベイポイントとなって、バトルブレーダーズ出場権の最初の獲得者となった。

だがキョウヤの中に不満が残った。その理由は他でもない、銀河に対してだ。
体調不良で棄権など、キョウヤからすればあり得ないことだし、もはや銀河は逃げたも同然のように感じた。 そんな不満を抱えたままキョウヤは銀河がいるはずの医務室に向かっていたが、その途中で遊と翼、そして双道兄弟の後に続いて歩く銀河の姿を見つけた。

「銀河!」
名を呼ばれて振り向いた銀河は、しかしキョウヤの姿を見るなり顔をしかめて一歩後ずさりをした。
「盾神キョウヤ……!」
その態度に不審なものを感じて思わず足を止めたキョウヤのそばにベンケイ、そしてケンタも駆けつける。

「銀河!?どうして遊たちと一緒に……」
銀河のそばに遊や大鳥翼たちがいる光景にケンタは嫌な予感を覚えた。
困惑しているケンタに答えたのは遊だ。
「どうしてって、ダークネビュラにいるんだから別に不思議なことじゃないよ」
「ダークネビュラに!?」
「うん。あとついでに記憶喪失」
無邪気にうなずいた遊は、軽い調子でそう付け加え、そういえば言ってなかったっけ、と首をかしげた。
ケンタもキョウヤもベンケイも驚きに目を見張るしかなかった。

三人の記憶にある銀河は、ダークネビュラを、そして竜牙を敵視していた。
倒すべき相手と見据えて、そして竜牙と戦うための舞台としてバトルブレーダーズを目指していたはずだ。 なのにその銀河が、敵であるはずのダークネビュラにいるというのだから、驚かずにはいられない。

「ほら銀河。早く帰らないと大道寺のおじさんがうるさいから行こう」
「あ、ああ」
「じゃあまたねー、ケンチー」
手を振って遊が歩き出し、銀河もそのあとを追おうとしたところで、その足元に道を塞ぐようにベイが飛んできた。 二人が振り向けば、ランチャーを手にした盾神キョウヤがいた。
「銀河、俺とバトルしろ!さっきできなかった決着をここでつけてやる」
「悪いがお前の相手をするつもりはない」
答える銀河の声は冷たく突き放すような響きを持っていた。

キョウヤは激高し、レオーネをけしかける。
「俺から逃げるつもりか!行け、レオーネ!」
だがそんなレオーネに対してぶつかってきたのは銀河のペガシスではなく、翼のアークアクイラだった。
さらには銀河を守るように、翼自身がキョウヤの前に立ちはだかる。
「よせ。大会は終わった。決着をつけたいならバトルブレーダーズでやったらいい」
「そこをどきやがれ!」
「銀河はいま万全じゃない。そんな相手を追い詰めて勝って、それでお前は嬉しいのか?」
キョウヤが押し黙った隙をつき、アクイラがレオーネをキョウヤの方へと弾き飛ばす。 翼は遊を肩越しに振り返った。
「遊、銀河を連れて先にいけ」
「命令しないで!……ったく。ほら銀河、行くよー」
反発はするもののこのまま留まるつもりはない遊は、銀河の腕を引いて歩き出す。 銀河は翼を気づかわしげにしながらも素直に従う。

「待って銀河!」
翼とキョウヤの睨み合いを気に掛けながらも、遊と銀河の後を追いかけようとするケンタの前に立ちふさがったのは双道兄弟だ。
「ここから先は行かせない」
「だったら!」
ケンタはベイを手に掲げ、ベルトのホルダーからランチャーを引き抜く。
「へえ、やろうっての?」
「まぐれで僕らを負かしたからって、調子に乗るなよ!」
レイキはダンからベイを受け取り、ランチャーを構えた。


ダークネビュラのビル屋上のヘリポートに、ヘリが着陸した。
遊が飛び降りて後ろを振り返ると、銀河はどこかうつろな表情で降りようとしていた。 危なっかしいと思う間もなく、膝から崩れ落ちた銀河の体をすかさず抱きとめたのは、いつの間にか来ていた大道寺だった。

ため息をつき、ずれかかった眼鏡を上げる。銀河はすでに気を失っていた。
「やれやれ。仕方ないですねぇ。天童君は先に戻っていなさい。あとは私が」
「うん。でも大丈夫?」
「何も問題はありませんよ。何もね」
ヘリのパイロットに翼たちを迎えに行くよう指示を出すと、大道寺は銀河を抱き上げて中へと戻った。

銀河を抱えて大道寺がやってきたのは、ビル内にあるメディカルチェックルームとは別の、大道寺の研究実験用の一室だ。
部屋の真ん中に置かれたカプセル状の装置に銀河を寝かせ、蓋を閉める。 装置につながったコンソールを操作すると、カプセル内を何かガスのようなものが充満していく。
それを眺めながら、大道寺は口元を歪めた。
「おやすみなさい、銀河君。良い夢を」

渡蟹を派遣したモンドシティチャレンジマッチの後のことだ。
大道寺は銀河が次に向かうであろう先の町にはぐれブレーダーに偽装した精鋭部隊を向かわせ、銀河を襲撃させた。 襲撃場所に足場が悪く、崩れやすい崖の上を選んで。 そして銀河はまんまと大道寺の仕掛けた罠に落ちた。 気絶しないまでもダメージを負った銀河を別の手段で気を失わせて拉致し、ビルに運ばせ、先ほどのカプセルに入れ、装置を起動したのだ。 とはいえ実はこの時点では、大道寺の予想通りになるかどうかはわからない未知の部分があったのだが。

やがて目が覚めた銀河は、大道寺の目論見通り、というより期待通り記憶を失っていた。
正確に言えば、銀河のこれまでの記憶を封じ、潜在意識に竜牙のデータをすべて刷り込んだその結果が出たのだ。 かくして、竜牙の姿を見た銀河は何よりもその存在に惹かれるようになった。

あれほど竜牙を憎んでいた銀河がまったく逆の感情を見せる光景は、興味深くもあり、同時に滑稽でもあった。 だが大道寺にも予想外だったことがひとつあった。

記憶の封印や極端な書き換えは、本来の性格を大きく変える可能性もあったにもかかわらず、銀河は竜牙を慕っていると言うこと以外、大道寺が知る限りと変わりがないのだ。

ベイバトルに目を輝かせ、純粋に相手ブレーダーの強さを褒めたり、かと思えばどこか掴みどころのなさも感じさせる一方で妙な天然を発揮したりもした。

なるほどこのような要素が相手を惹きつけ、ひいては仲間の絆とやらを深めてきたのだろう。
もしもそれが失われたときにその絆はどうなるのか、銀河のブレーダーとしての強さはどうなるのか、というのが大道寺の疑問であり、ブレーダー育成技術の新たなステップになるのではないかと、今回の計画を立てたのだ。

大道寺にそんな疑問を抱かせたのが銀河なのだから、鋼銀河ほど実験体としてふさわしい存在はいない。
だからこそ、それが失われなかったことが驚きだったし、自分の研究の成果にさらなる自信と期待を持つこともできていた。


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