「ケンタ、ベイパーク行こうぜ!」
「ごめん、あとで!」
「今日も銀河のお見舞いか?」
「うん。ごめんね、後で顔出すから!」
オサムたちの誘いを申し訳なさそうに断って、ケンタは走った。
まどかと合流し、二人が向かったのは銀河が入院している病院だ。目的の病室までの廊下の途中で、ばったりと氷魔に出会う。
「ケンタくん、まどかさん!ちょうど良かった、銀河が目を覚ましたので連絡をしようと……」
「え!?」
氷魔と共に急いで病室に入ると、銀河はベッドの上で上半身を起こしていた。
その傍らには銀河の父である流星もいる。
「銀河……銀河!!」
ケンタは涙ぐみ、駆け寄って抱きつく。
もう何日も眠ったままで、このまま起きないのではないかと半ばあきらめかけていたところだった。
「良かった銀河、よかった……」
まどかも流れる涙を指先で拭うと、なんとか笑みを浮かべたが、それでも涙は止まらない。
すかさずいたわるような表情を浮かべて、氷魔がハンカチを差し出した。
「ケンタ、まどか……ごめんな」
「心配したんだよ、銀河。でも、よかった!」
あの時。銀河が倒れ、竜牙を止めようとキョウヤのレオーネや流星のバーンフェニックスが撃ち放たれたが、しかしどちらも力及ばなかった。破壊の龍は暴れまわり、さらなる糧を求めてケンタたちに狙いを定めた。
その時だった。エルドラゴに完全に支配されたと思われた竜牙の様子が変わった。
命を振り絞るような叫びとともに、空へと掲げられた手。
強い風を起こしながら回転を続けていたエルドラゴが急にカタカタと震えはじめ、ゆっくりと浮かび上がり、竜牙の手の中におさまった。
握り締められた瞬間、それまであたりを破壊し、暴れまわっていたエルドラゴが突然苦しみにのたうち回りながらベイへと吸収されていくのを、そしていくつもの光がベイのエルドラゴから四方八方へ放たれるのをケンタたちははっきりと見た。
竜牙は力尽きたのか崩れ落ち、銀河に重なるかたちで倒れこんだが、その手にはしっかりとエルドラゴが握られていた。
バトルブレーダーズはこの時起きた衝撃的な出来事によってそのまま中止となった。
スタジアムは崩壊し、決勝に進むべきブレーダーもすべて負傷という事態では、大会の続行など不可能だった。
隣接するダークネビュラのビルはその時の余波で半壊し、所属していたブレーダーたちは散り散りになった。
竜牙とエルドラゴによって力を奪われて糧になっていた者たち、ヒカルや翼、遊やダークネビュラのブレーダーたちなどは目を覚ましたが、銀河と竜牙だけは深いこん睡状態に陥っていたのだ。
「ねえ銀河、元気になったらまた僕とベイバトルしてほしいんだ!」
「ケンタ……」
銀河は戸惑い、サイドテーブルに置かれていた相棒、ストームペガシスを手に取る。
暴走したエルドラゴとのバトルで負ったダメージは深刻で、WBBAの総力を結集しても、完全に修理することは出来なかったと目覚めた時に流星に言われていた。
目立つ大きな傷は修復されているが、いざ回したとしても相手の攻撃に耐えきれるかどうか危うく、必殺転技を放てばそれによって完全に壊れるだろうと警告を受けていた。
ケンタはまだそれを知らないのだ。
まどかも修理に協力したが、期待に満ちた顔を見ると二人とも何も言えなかった。
「銀河?」
「いやなんでもない。そうだな、元気になったら」
「うん、約束だからね!」
そうは言ったものの、ケンタとの約束を果たすには今のペガシスではまともにバトルはできない。
目が覚めた後、まどかにはずいぶんと叱られた。
バトルブレーダーズでどうしてあんな無茶な戦い方をしたのか、ペガシスが可哀想だ、と。
それは銀河の記憶になかったことだが、まどかの剣幕の前にはその言い訳は出来そうになかったし、たとえ記憶が無くてもペガシスに無茶をさせてしまった事実は変わらない。
ため息をつき、銀河は夜空を見上げた。
今夜は曇っているためか星はほとんど見えない。
銀河は目覚めた数日後に退院し、今は古馬村に戻っていた。
空へ向けていた視線を、かつてエルドラゴが封印されていた神殿へと転じる。
いまそこには禁断のベイ、ライトニングエルドラゴが、その内に秘められた暗黒の力を制御し続けながら眠る竜牙と共に封じられていた。
父の流星はエルドラゴを再度封印するため、竜牙の手から引きはがそうとしたがまるで一体化したかのようで困難だったという。
いろいろな調査の結果、どうやら竜牙がエルドラゴの暗黒の力を抑えているらしく、むしろ強引に離そうとしたりすれば力が解き放たれ、周囲を危険にさらす可能性があると判断された。
WBBAと何度も議論を重ねた末、流星は竜牙共々エルドラゴを古馬村のかつての地に封印することを決めた。
「風邪を引くぞ、銀河。まだ本調子じゃないだろう」
「北斗……」
北斗は銀河の横に座り、そうして空を見上げるとため息をついた。
「今日は星が見えないな。どうした。深刻そうな顔をして」
「うん、ペガシスにはずいぶんと無理させちゃったなぁって」
銀河の手の中にあるペガシスを見やり、北斗はうなずいた。
見た目には大きな傷は無くても、ペガシスは満身創痍の状態だ。 手元のペガシスに視線を落とす銀河の横顔に、北斗は言いかけたことを飲み込んだ。
銀河が記憶を失い、ダークネビュラにいると知って北斗は絶望にも似た思いを味わった。
これでもう誰も竜牙とエルドラゴを止める者はいなくなってしまった、と。
だが銀河は、エルドラゴに立ち向かった。
結果は北斗や流星が望んだ形ではなかったとしても、今、エルドラゴは再び封印されている。
「ペガシスはエルドラゴに対抗して作られたベイ。どんな形であれエルドラゴが再び封じられたいま、ペガシスの役目も終わったということじゃないのか」
「……役目。じゃあペガシスを休ませてやらないと」
「休むのはお前もだ。まずはゆっくり休んで、後のことはまたその時考えればいい」
「うん、ありがとな北斗」
「まったく、銀河には驚かされるばかりだ」
北斗は呆れたような感心したような表情で息を吐いた。傍らで氷魔もうなずく。
「ええ本当に。信じていなかったわけではないですが、まさか伝説とされるベイを目覚めさせるとは」
「……だがこれで良かったんだろう。銀河にペガシス以外のベイなど想像がつかなくなってしまっていた」
「確かにそうですね」
頷きながら氷魔は笑い、大切そうに、嬉しそうにベイを見つめる銀河の横顔を眺めた。
「良かったですね、銀河」
ケンタとの約束がなかったとしてもこれから先を考えれば、今のストームペガシスをこれ以上使うことはできない。 だがそうなると流星から譲り受ける前までの自分のベイを使うか、それともまどかに協力してもらって新しいベイを探すか、という選択肢になる。
けれどペガシス以外のベイでケンタとバトルをすることに、果たして意味があるのだろうか。
体は回復しつつあったが悩んでいたために沈んでいた銀河を見かねてか、流星がある話をしてくれた。
かつて星の欠片からペガシスは作られたが、ストームペガシス完成までには試作品がいくつも作られた。
それはそのうちの一つであり、強い力を秘めたゆえに求めるブレーダーは多かったが、誰も手に入れたことのない伝説のベイが封印されているというものだった。
北斗は最初、銀河がそれを求めることにあまり良い顔をしなかったが、氷魔と共に銀河をそのベイが眠る場所へと案内した。
そこで見つけたのは、壁に埋もれて石と同化したベイブレードの姿だった。 辺りの壁にはヒビが入っているが、肝心のベイにはヒビ一つ入っていない。 化石となっていては誰も手に取れないはずで、これではさすがに無理だろうと氷魔も考えていた。
だが銀河はそのベイを手にすることが出来た。
語り掛けた声に応えてくれたのか、一瞬だけ石のはずのフェイスが光った気がした。
ふと手にしていたストームペガシスが光を帯びだし、やがて一筋の光となって伝説のベイのフェイスへと差し込んだ。
その瞬間、伝説のベイは強い光を放って銀河を包み込み、目の前には広大な宇宙が広がった。
遠く宇宙の彼方から、白い天馬がいななきと共に銀河の元へと舞い降りてきた。
気が付けば、銀河の手には新たなベイがあり、そして本当に役目を終えたとでも言うように、ストームペガシスは静かに光の粒となって消えていった。 ストームペガシスから新たなペガシスのフェイスに差した光は、宿る天馬の光だったのだろう。
長らく封じられていたとは思えないほどの美しさと新しさのそれはギャラクシーペガシスと名付けられたが、伝説とされるだけの力はあるものの、まるで制御のきかない暴れ馬だった。
「……おれ、旅に出ようと思う」
「旅?」
「うん。こいつとじっくり向き合ってみたいんだ。時間は掛かるかもしれないけど……それに今回のことで自分の力不足を痛感した。鍛え直そうと思ってさ」
今のままではまともなバトルさえできない。
もっとギャラクシーペガシスのことを、新しい相棒のことを知らなければならない。
ケンタとの約束を果たすのはそれからでも遅くはないはずだ。
「いいじゃないか。ブレーダーは何はなくともまずはベイの声を聞き、共に力を磨き、絆を育むことで強くなる。行って来い、銀河!」
流星は息子の背中を叩き、豪快に笑った。銀河は痛みに顔をしかめ、そうして仕方ないという表情で笑った。
北斗はそんな様子を呆れつつもどこか微笑ましそうな表情で眺め、そうして息を吐いた。
「止めたって聞かないのがお前だからな。だが気をつけて行くんだぞ」
「北斗。ああ!」
空に星が輝く夜、銀河はベッドの上に身を起こし、窓の外を眺めていた。
妙に胸が高鳴ってどうしても寝付けないのだ。
朝になったら旅立つからかもしれないと、そばの引き出しに置かれたギャラクシーペガシスを手に取って眺める。
そうして銀河は突然何かに突き動かされたように顔を上げ、息を呑み、ベッドを降りた。
「いってきます、父さん、北斗……」
そっと声を潜めて、銀河は荷物を手に家を出た。
本当は明るいうちに出たほうが北斗たちを心配させずに済むのだろうが、何かに心が突き動かされては、朝まで待つことなど出来なかった。
村の中央へと足を進め、ふと銀河は足を止めた。
何かが自分を呼んだような気がしてあたりを見回し、そして視線がエルドラゴと竜牙の眠る神殿で止まった。
「竜牙……?」
銀河は導かれるように足をそちらへと進めていた。
エルドラゴがダークネビュラに奪われた当時の崩落の影響で内部はずいぶんと変化していて、そのなかに置かれた竜牙の眠る装置はさらに異質な存在だったが、近づくにつれて設置した時と様子が変わっていることに気づいた。 駆け寄ると一部が破壊されていて、中で眠っていたはずの竜牙の姿が見当たらない。 ふと、背後に現れた気配に振り向いて、銀河は目を見張った。 思わず荷物が手から滑り落ちる。
「りゅう、が……」
驚きに言葉を失い、なんとかその名前だけは呼べたが、かすれてしまった。
「……竜牙っ」
知らず詰めていた息を吐き出した瞬間、いきなり涙があふれたことに銀河自身が驚いていたが、体は勝手に動き、竜牙へと抱きついていた。
「竜牙……竜牙……!」
「相変わらずさわがしい奴だ」
泣きじゃくる銀河に竜牙は息を吐き、そうして彼には珍しいことにまるで慰めるように銀河の背を軽くたたく。
「だって、会いたかった……!」
病院で目が覚めてからずっと頭の隅で考え、心の中で思い続けていたのは竜牙のことだった。
父や仲間たちは、銀河が記憶を取り戻したのはあの竜牙の暴走の時だと思っているが本当は違う。
だが心配したと、記憶が戻ってよかったと喜ぶ彼らに本当のことを言って傷つけたくはなかった。
「そばを離れないって、あの時決めたんだ。竜牙と一緒にいるって……だからっ」
それ以上は言葉にならない様子で、銀河は竜牙に抱きすがる。
泣く声と腕の力強さに、竜牙はどれだけ銀河が想いを募らせていたのかを悟り、言葉を返す代わりに以前にもそうしていたように銀河の耳に唇を触れさせ、ただ静かに名前を呼んだ。
このあと二人で旅へ。ライトニングからメテオに進化予定。元々メリバエンドのつもりだったが書いていくうちになんか違うなってなったけど……。
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