ベガスシティで行われるチャレンジマッチは、獲得ベイポイント一万とあって、大勢のブレーダーが集結していた。 湯宮ケンタは久しぶりに仲間たちとの再会を果たしたが、まだ一人、一番会いたい仲間には会えていない。
ケンタは辺りを見回した。
獲得できるベイポイントを考えれば、そしてチャレンジマッチであることを考えれば参加していないはずはないのだ。
ケンタはベンケイと一緒に捜して、ようやく会いたかった横顔を見つけ、その名を呼びながら駆け寄った。
「久しぶり銀河!やっぱり銀河も来てたんだね!」
「久しぶりじゃな!」
銀河と呼ばれた少年は立ち止まり、ケンタとベンケイを振り向くと首をかしげた。
「……えっと、どこかで会ったか?なんでおれの名前知ってるんだ?」
銀河の返事に二人は顔を見合わせ、そろって笑いだす。
「もー、銀河ったら!それって何かのゲーム?」
「ウソをつくならもうちょっとバレんようなウソをつかんかい!」
銀河は眉根を寄せ、怪訝そうな表情を見せた。気づいたケンタが、首をかしげる。
「銀河?」
「呼びとめたと思ったら急になんだよお前ら」
ため息をついて背を向けようとするので、慌ててケンタは銀河の腕をつかんだ。
「待ってよ銀河!」
「何だいったい」
振り向きながら、銀河は腕をつかむケンタの手を払う。
そうしてケンタを見下ろす表情は、知っているいつもの銀河とは違っていた。
三人の間の空気が急に不穏なものに変わる。
「銀河?」
「なんじゃいそんな怖い顔をして。笑ったのがそんなに気に食わんかったんか」
「というかさっきから何なんだお前ら。悪いけど知らない奴に付き合ってる暇ないんだ」
「知らないって、銀河ってば何言ってるのさ」
冗談はやめてよ、と返すケンタの声は知らず震えていた。
「そうじゃい!それに元はと言えば先にお前が知らない振りしたのが悪いんじゃろが!」
「知らない振り?」
ベンケイが鼻息荒く反論すると、銀河は怪訝な顔をして、ついで眉をつり上げた。
「振りも何も、おれは本当にお前らを知らないんだ」
「知らないって……」
「何をいっとるんじゃ銀河。こいつは、ケンタはお前の友だちで、そのケンタを忘れるとは……は、はは。冗談も大概に……」
表情を変えて冗談だと言ってほしかったが、銀河にそのつもりはないようで、ベンケイを睨みつけてくる。
「……まさか、まさかキョウヤさんのことまで忘れたなんて冗談はっ!!」
勢いそのままに、ベンケイは銀河の胸ぐらをつかみあげていた。
その手を振りはらって、銀河は険しい表情を見せた。
「キョウヤって盾神キョウヤか?それなら知ってるさ。できるだけ近づくなって言われてるからな」
「近づくなっていったい誰に!?」
「誰だって良いだろ。それ、お前らに関係あるのかよ」
銀河はどこか面倒そうにため息をついた。
突き放す態度や拒絶の気配に、ケンタは息が詰まるのを感じた。
かつて銀河の旅の理由や、竜牙やダークネビュラとの因縁を知るまではどこか距離を感じることもあったが、いまは違う。
なのにこの瞬間、その距離以上の、壁がそびえたような感覚にケンタは陥っていた。
「ウソだよね、銀河。ぼくたちを知らないって、ねえウソだって言ってよ!」
ケンタが銀河に掴みかかる。
振り払わないまでも、しかし見下ろす表情はとても冷たくて、ケンタは無意識に手を離して一歩後ずさっていた。
「用はそれだけか?ならもういいよな」
息を吐きだすと銀河は再び背を向けた。
「待て銀河!!」
ベンケイが銀河の肩を掴んだ次の瞬間、肩越しに睨む眼差しと目が合い、ベンケイはひるんで思わず手を離した。
それは、かつて目覚めた竜牙に対した時に銀河が見せた憎悪に染まった表情そのものだった。
驚愕し、銀河の態度に怒りを覚えながらも、表情から悟らざるを得なかった。
この目の前の鋼銀河は、自分たちのことを忘れていることを。
キョウヤとの付き合いの長さほどではなくとも、銀河がこんな嘘をつくはずがないことをほかならぬベンケイ自身が、頭の隅で理解しているのだ。
二人はただ、立ち去る銀河の姿をだまって見ているしか出来なかった。
「銀河、どうして……どうしてなんだよ!」
両手を膝の上で握りしめて、ケンタは呻いた。握り締めた拳に涙の雫が落ちる。
バトルブレーダーズ出場をめざして旅立ったあの日以来の再会なのに、一体今日までの間に何があって、ケンタたちを知らないなどと言い、あまつさえあんな憎しみの表情を見せるほどになってしまったのか。
各地のチャレンジマッチは中継されていて、それを見る限り銀河はいつもと変わらないはずだったのに。
「クソっ!!」
ベンケイは壁を思い切り殴りつける。だがそれでも怒りは到底収まらない。
「ケンタ!こうなったら俺とお前とで銀河の目を覚まさせるしかない!」
「目を覚まさせるって、でもどうやって」
「きまっとる!ベイで俺たちの想いをぶつけてやるだけじゃい!」
「ベイで、想いを……」
サジタリオを手に取る。
鋭いまなざしが描かれたフェイスがケンタを勇気づけるようにきらりと輝いた。
ぎゅっと握りしめる。そうだ、銀河は言っていた。
ベイバトルで最後に勝負を決めるのはブレーダーの心(たましい)だと。
真剣な熱い思いをベイに乗せ、バトルでぶつければ、たとえ銀河が自分たちを忘れてしまっていても、ブレーダーの心が覚えているはずだ。
「うん……そうだ、ブレーダーの心があれば、銀河だってきっと!」
「おう、その意気だぞケンタ!」
一回戦でケンタは二人で一つのベイを操る双子のブレーダー、双道ダン・レイキ兄弟と対戦した。
同時に四つあるベイスタジアムの他ではキョウヤとヒカル、ベンケイと大鳥翼などが戦うことに。
キョウヤ対ヒカルはキョウヤが勝利し、ベンケイは翼に敗北していた。
そのため、すでに一回戦第一試合を深海流太郎という妖術師を自称するブレーダーと戦い、勝利している銀河と戦うには、ここでケンタが勝ち上がるしかなくなっていた。
だが指示と戦闘を分担し、かつ三つの必殺転技を駆使してコンビネーションで攻めてくる彼らに苦戦していた。
もう無理かもしれない、と諦めかけた時だった。
「――しっかりしろ、ケンタ!!」
聞き覚えのある声が、ケンタの耳朶を打った。
振り向くと、観客席の階段通路に銀河が立っていた。
「銀河?」
観客席にいたまどかや氷魔が驚きながら銀河を見ている。
ケンタと目が合った瞬間、銀河は自分自身でも驚いているようで、慌てて背を向け、行ってしまった。
「銀河!」
――もしかしたら無意識なのかもしれない。
だとしてもそれは可能性がゼロではないことを示すものではないだろうか。
それならばこんなところで負けてなどいられない、とケンタは奮起した。ここを勝ち進んで、銀河と戦って自分たちのことを思い出してもらうのだ。
試合の前にベンケイとそう誓い合ったではないか。
結果。相手の兄弟が言い争いを始めてコンビネーションが崩れだしたこともあって、ケンタは一回戦をなんとか勝ち残ることが出来た。
その後も戦いは続き、やがてケンタを含めたブレーダー六名が、頂点を目指すための戦いへ進むこととなった。
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