続きを読もうとページを開こうとして、挟んでいた栞が無くなっていることに大倶利伽羅は気づいた。
周囲や棚を確認してみても、それらしいのは見当たらない。
彼はいくらか落胆した気持ちを抱えながら、本丸で昨年増築された区画にある図書室に向かった。
ここでは男士たちが本を読んだり、調べ物ができるようにと端末が置かれ、好きに出入りできるようになっている。
ここで普段読む作家以外の本にも手を伸ばすと意外な出会いもあったりするのでたまに足を運ぶのだが、この時の目的は入ってすぐに置いてある箱だった。
そこには手作りの栞がいくつか入っていて自由に持っていって良いことになっている。
しかしいざ行くと、その箱すら見当たらなかった。
誰かが移動させたのかと図書室の中を見回すと、奥のテーブルで主が何か作業しているのを見つけた。
手元には入り口から消えていた箱がある。
新しく栞を追加しているのだと見当をつけ、テーブルへと近づいて声をかけた。
「何か手伝うことはあるか」
主から任されたのは、折り紙で作った栞をラミネートフィルムで加工したあとに余白を残しつつ形に添って切り抜いてほしいというもので。
ハサミなどを渡され、大倶利伽羅は作業を始めた。
折り紙には千代紙を使っているからか色々な模様がある。
彼がどこかで無くしてしまったらしい栞は単色の折り紙で作られた簡単なもので、それ自体は彼自身も作ろうと思えば作ることはできたのだが、彼がそれを惜しいと思っているのは、主の手作りでなおかつ手描きの簡略化されたネコの絵があったからだ。
廊下の掲示板に貼られる予定表の紙の隅には時々、のんきそうな顔のネコの絵が描かれていることがある。
それが主の手によるものだと彼は知っていたので手作り栞の入った箱を覗いて見つけた時、迷うことなく手に取っていた。
続きを読もうとページを開くたびに、のんきそうな顔のネコが出迎えてくれる。
ささいなことだが、彼にとってその瞬間は悪くないと思えるほどにその栞を大事にしていた。
切り抜きが終わろうという頃、そういえばと主が懐から布を取り出し、昨日林道の先で拾ったのだと言って折りたたんでいたのを開いて大倶利伽羅に見せてきた。
本当は昨日の夜に訊くつもりをしていたのにすっかり忘れていた、とも。
そこには彼が無くしたと思っていた栞が乗っていた。
昨日と言われて、大倶利伽羅は確かにあの林道の先で本を読んでいたことを思い出す。
出陣の予定が後に控えていたのできりのいいところまでと思っていたのだが、思いのほか文章に引き込まれてしまい、切りどころが見つけられなかったので途中で無理矢理切り上げてその場を後にしていた。
栞を挟んだつもりでいたが、なかば無意識だったのできちんと確かめた覚えがなかった。
「やっぱり落としていたのか」
彼が残念に思ったことに、栞は破れて汚れていた。主が拾った時にはすでにこの状態だったという。
紙だから仕方がないとため息をついた大倶利伽羅に、主は新しいものに変えたらとこれから穴を開けて紐などを通す前の栞を一つ手に取って勧めてきたが、彼はそれを受け取らずに主の手元を見やって指をさす。
「ならそれをくれ」
主はちょうど裏地が見える折り方で折っていた栞の余白部分に例のネコの絵を描いていた。
だが彼が切り抜いていたものにはどれもそれらは描かれていない。
主は彼を不思議そうに見て、こんな変なの描いてあるけどいいのと聞き返すが、むしろそれ以外には興味が引かれなかった。
それがいいとうなずくと主は戸惑いながらも納得し、ふと何かを思いついたのかそうだと両手を打ち合わせてちょっと待っててと言って図書室を出ていってしまった。
大倶利伽羅は疑問に思いながらも主が戻ってくるまでに他の栞を完成させておこうと、余白の上の部分に穴を開け、そこに細いリボンなどを通して結ぶ作業に没頭した。
主が戻って来る頃には箱の中では完成した栞が積み重なっていた。
材料のおかげもあってか色とりどりでにぎやかだ。
手伝ってくれてありがとうと声をかけてくる主の手には、彼がつい先日離れの厨房で見た、刀剣男士の紋が刻まれたハンコとスタンプ台があった。
はい、と主から出来上がったばかりの新しい栞を渡される。
ネコの絵が描かれた裏地の部分の余白に、赤茶色のインクで押された『大倶利伽羅』の紋。
それをラミネートフィルムで加工し、切り抜くときに残した余白部分に開けた穴には茶褐色のリボンが結んである。
大倶利伽羅にはそのリボンにどことなく見覚えがあった。
尋ねれば主はうなずいて、この前大倶利伽羅がホワイトデーとして渡してくれたケーキについていたリボンだと言った。
紋の判を押したのは、そうすればもしまた落としたとしても誰のものかわかるので戻ってくる可能性が高いだろうから、だそうだ。
せっかく主が作ってくれた栞なのだから二度と落とすつもりも失くすつもりもなかったが、それでもそんな気遣いが嬉しくないわけではなかった。
「……大事に使わせてもらう」
大倶利伽羅はそう言って主の手を取って、手の甲に口づけを落とした。
戻る